毎年11月11日は中国にて光棍節 (独身の日) とされ、中国国内においてはブラックフライデーよりも大きな商戦機会となっています。
ここ数年は日本含め他国でも「いい買い物の日」などと呼ばれ様々なセールが実施されています。
私もそのお零れにあやかろうとネットパトロールをしていたところ、良さげなコントラバスのカーボン弓を見つけたので購入したという次第となります。
- この記事も届いてからすぐに投稿するはずが半年経ってしまった
- 左手のアレソレが落ち着いたら……と思ってたら機を逃した
コントラバスの弓と私
私も何だかんだで10年以上コントラバスという楽器を続けており、その中で2本の弓を保有していました。
上が初代、下が二代目の弓です。
1本目は楽器の購入時におまけで付けてくれた杉藤の一番安いモデル (Contrabass Standard 1?) で、購入から5年ほど経ち流石に限界を感じて2本目のDörfler (デルフラー) 製のCB-120に買い替えました。
それまでは弓による演奏能力の変化に対して懐疑的だったのですが、試奏の段階で劇的に弾きやすくてめちゃくちゃたまげた記憶があります。
価格としては上は当時買うと2~3万円ぐらい、下は購入時で約12万円だったと記憶しています。
- 白状すると、カーボン弓を買ってから楽器が弾けない間の期間に安い方の弓を手放してしまったため登場はここまでです
いきなり余談ですが、コントラバスは他の弦楽器と比べて、楽器本体より先に弓だけを買う率が極めて高いです。
理由としては、楽器本体の値段が他の楽器よりも高い、学校や施設の楽器を借りられるため本体を急いで買う必要がない、楽器がでかいので買いづらい・買ったらもう後に引けない 辺りなのではと思います。
楽器の値段に関しては正直管楽器に比べたらそこまでではない気がしているので、やはりサイズというのが一番のネックとなっていると思います。
弓の材質あれこれ
ブラジルウッド 引用元: Paubrasilia echinata by Mauricio Mercadante
licensed under CC BY-NC-SA 2.0
コントラバスに限らず、弦楽器の弓の材料にはいくつかの種類があり、大きく分けて木と人工繊維と分けられます。
上記杉藤の弓はブラジルウッド、デルフラーの弓はフェルナンブーコという材木で作られています。
フェルナンブーコはブラジルウッドの中でもフェルナンブーコ地方に生えている質の高い材木のことを指しており、一般的にブラジルウッドと呼ばれているものはグレードは低いものの同じ品種の木のようです。
特長としては曲げ強度が他の木と比べて優れており、弓なりの形状 (近代以降は逆弓ですが) への加工や形状維持に向いているとされています。
木材ではフェルナンブーコが最も質が良いとされていますが、ワシントン条約にて保護の対象となったため現在流通分の加工前木材が尽きたら製造が不可能となります。
- 実際のところは生産国内で流通を完了すれば良いというのがあったはずなので、ブラジルの工房・オーケストラが独占し栄える未来があるかもしれません
他にも、バロック弓向けには特性が近く模様の綺麗なスネークウッドが使われることもありますが、こちらも枯渇が危惧されている材木であり既にワシントン条約にて規制されています。
スネークウッド 引用元: A dead snakewood tree gets some visitors by Jim Bendon licensed under CC BY-SA 2.0
上記のように古来より弓に使用されてきた材木が、人工繊維による弓の開発が行われています。
- SDGsという言葉が出来る前からその考え方を実践している超環境的界隈
弓の材料となる人工繊維として最も有名なものは、後述するカーボンファイバー (以下カーボン) になると思います。
カーボンは楽器界隈としてもギターやヴァイオリン、トランペットのボディに使用されたりと新素材として色々出始めてきています。
また、繊維としては調べたところガラスファイバー製の弓もあるようですが正直こちらはあまり詳しくありません。
調べた限りではカーボン製よりも安く、その代わりに質も価格相応な事が多いらしいので、現状ではもう少しお金を積んで木製かカーボン弓を選んだほうが良さそうです。
- ちなみに弓の毛は今も昔も変わらず馬の尻尾の毛が使われてる
- と思ってたんだけど、調べたらシンセティック毛なるものもあるらしい
カーボン弓
前述の通りフェルナンブーコ含むブラジルウッドは、楽器本体に使用されているようなメープルや黒檀といった硬い材木と比較して適度に柔らかくしなやかで、
一方、カーボンファイバーは鉄などの金属と比較して軽くて強いと言われています。
この「強い」というのは、繊維の製造方法や品質にも依ると思いますが、一般的には曲げ耐性が強く衝撃には脆い傾向があります。
そういう意味では傾向として金属よりも木に近いため、楽器への応用はボディの箱や弓など割とどこでも使えそうです。
実は、一回目の弓の買い替えのタイミングでカーボン弓にするということも少し考えていました。
当時はCoda bow INFINITYあたりを検討していましたが、周りの方と相談した結果カーボン弓1本で戦うのは怖いということで泣く泣く諦めた思い出があります。
注文した弓
MELLOR P5Gという製品です。
以下、本項で紹介している画像はすべてAli Expressの商品ページからの引用となります。
買った弓は同社の基準4段階のうち上から2番目のグレードのようです。
Solo - Premiumに該当する弓はカーボンとフェルナンブーコ材のハイブリッドだったので、純粋なカーボン弓としては最も高いランクの商品でした。
- この弓もそうですが、カーボン弓でも毛箱の部分は黒檀(もしくは黒檀と樹脂の混合剤)が使われている場合がほとんどです
- 毛箱側面、株の装飾は螺鈿細工です
以下、弓の毛はどうせ1年ぐらいで張り替えると思うので弓本体にのみ注目します。
Golden diamond carbon fiberなる素材がググっても同社の弓の情報しか出てこなかったため詳細不明ですが、ともかく品質が良いようです。
色も木に寄せつつ、カーボンファイバー特有の格子模様がアクセントとなっています。
定価26,000円で普段は23,500円ぐらいで売られているところを、今回のセールやクーポンの何だかんだで17,000円で購入することができました。
- 記事執筆のために改めてページにアクセスしたら常にクーポン配ってるっぽい?
- 2022年5月時点だと円安で2,000円ぐらい上がってるからセールよりも為替をチェックしたほうが良さそう
クーポン等がなく定価ですがAmazonでも売っていたので、海外からの個人輸入が不安な方はこちらも有りかもしれません(定価でもその辺の弓より安いので)。
届いた
注文後すぐにDHLで発送され、8日ほどで届きました。
中華サイトで買い物をすると通常配送では1ヶ月ほどかかる(もしくは届かない)ため流石DHLといったところです。
金属と間違えるぐらい重厚な塩ビの筒に入れられて配達されました。
象が踏んでも壊れなさそうです。
筒を開けてみると、多少の梱包材は入っていたものの弓自体はビニールに包まれてそのまま入っていました。
特に壊れている様子はなく一安心です。
この価格帯としては珍しく毛箱に蝶貝の目が付いています。
正直目の有無で音や弾き心地が変わるとかは無いですし、付いてるから高級というわけでもないのですが、付いてるとなんだかお得感がありますね。
棹側のメーカー名はプリントではなくちゃんと掘られていました。
リング、螺鈿装飾に関しては普通です。元々の毛量が微妙に多い気がします。
- この弓に限らず毛箱の裏側にこういう感じの装飾がされていることが多いけど、未だにこれがなんなのかよく分かってない
- 詳しい人がいたら教えてください
写真だと分かりづらいですが、巻線には透明なテープが巻かれています。
剥がそうとしたら糸まで外れそうになったので今のところそのままにしています。
ネジの部分はグリスがたっぷり塗られていました。
毛を張ったり緩めたりするときには有り難いですが、外すときは手についたりするので注意が必要そうです。
先側は特筆すべきことは無さそうです。
微妙に塗料がはみ出ていたり傷付いてるように見えますがそれはまあご愛嬌ということで……
裏側のチップは元々汚れてました。
セラーのメールアドレスがhotmailなのが良いですね。
上位機種だと純銀が使われているみたいでビビりました。
木の弓との比較
材質 | 重量 | 長さ (端から端までの直線) | |
---|---|---|---|
杉藤 Contrabass Standard 1 | ブラジルウッド | 136g | 測り忘れた |
Dörfler CB-120 | フェルナンブーコ | 139g | 74.8cm |
MELLOR P5G | カーボン | 128g | 76.5cm |
キッチン計での計測ですが、私の所持していた弓の中では一番軽量でした。
単純に重量を見ると上下の差で11g(重量比として約9%)で、さらに1.7cm程度の差があるので私の所持している中ではフェルナンブーコ材のほうがやや重いと言えそうです。
所感
これはただ私が思っただけで世間的に共感を得られるかは分かりませんが、弓の重さはゲーミングマウスの感度に近い気がします。
繊細かつ機敏な操作が求められるようなゲームをプレイする際、マウス感度の調整が重要となってきます。
例えば、FPSのようにプレイヤーの移動方向をマウスで操作するようなゲームにおいて180°後ろを振り返る動作を行う際に、通常の感度では10cmマウスを動かす必要があるのに対して感度を上げて2cmで振り返られるようにすれば同じ動作を1/5の移動量で行うことができます。
そのように感度を高く設定することで素早い反射神経が求められるような場面でよりスムーズに動くことが出来る反面、プレイ中の誤操作などの影響をモロに受けてしまうためよりシビアな操作や高い技術が求められます。
楽器の話に戻ります。
上記におけるマウス感度は、弓に当てはめると体感の重さ (≠重量) になるのでは無いかと考えています。
ここでの体感の重さとは、弓を持った際に弓本体の重量や重心位置や長さなどにより手指に感じる重さのことを指しています。
重い弓の方が所作が安定する分各操作 (特に移弦やトレモロ) の際に使用するエネルギーが多くなり、軽い弓はそこのコントロールが難しい代わりに少ないコストで扱えると言えると考えます。
以上を踏まえてこの中華弓を見ると、重量自体が相対的にこれまで使っていた弓より軽く重心も少し近いため軽く感じ、早いフレーズでも軽快に弾くことができました。
問題の精度に関しては、正直あまり良く分かりませんがProfessionalを名乗るだけあってそこまで変な感じはないです。
安い弓にありがちな持ったときに重心が不安定な感じがなく、弓先まで意思を持って動かせてる感はちゃんとあります。
また側面のバリが痛いとか木のささくれがひっかかるみたいなこともありませんでした (流石にそんなのがあったらヤバいですが)。
ただ、感じたのは「無難」ではあるものの「ここが優れている」という点はなかなか探しづらかったということでした。
良いと感じている点も、『木のそれなりに良い弓と比べて』よく出来ている、というような枕詞がついていて、カーボン弓だからこそみたいな点が出てこないようなイメージです。
軽いというのが人工繊維の良さの1つかもしれませんが、これも木の選定や加工次第ではクリアできそうなため、何か他にカーボンだからこそ!みたいな特長があれば奏者が増えそうです。
これがカーボン弓全体の話かこの弓の話なのかは判断付いていないので今後の課題とします。
- だから本当は10~20万円クラスの良いカーボン弓で試奏してカーボンの到達点を確認してから物を申したほうが良かった
- たかだか2万円の弓で大した欠点が出てこない時点でめちゃくちゃコスパが良いと言える
なんかよくわかんない例えなどをダラダラ書いていましたが、結論としては思っていたよりよくてぶったまげたという話でした。
総括
この弓は楽器を始めたばかりに買う1本目であったり、私のようにサブで持っておく用途としてはめちゃくちゃ良さそうです。
安くて癖がなく、カーボンなので耐久性も高く(剛性は検証していないため一般論として)、そして見た目も高級感があり恥ずかしくないという、弓が演奏能力に与えるプラス効果の面以外では完璧な仕上がりとなっています。
もし今後周りに新たなコントラバス奏者が誕生して、まず弓を買いたいけどいきなり高いやつは…となっていたらこの弓含めカーボン弓を勧めてみるのも良いかもしれません。
その後楽器を続けて弓をグレードアップするときもサブ弓として持っておいて全く損がないため、かなり長い付き合いができると思います。
曲によって使い分けるというのも面白そうです。
- コルレーニョの時だけカーボン弓を使うっていう話もたまに聞く
余談 大昔にコルレーニョガードなるアクセサリを試してた時期もあったけどいつの間にかどっかいってしまった